これは決定済みの変更ではなく、まだ提案規則だ

米国国土安全保障省(DHS)は2026年9月11日、Federal Registerに『Eliminating the Discretionary 60-Day Grace Period』という規則案(NPRM)を掲載した。E-1、E-2、E-3、H-1B、H-1B1、L-1、O-1、TNなどを対象に、現行8 CFR 214.1(l)(2)が認める雇用終了後最大60日の裁量的グレースピリオドを削除する提案だ。

現時点では施行済みではない。コメント期限は2026年11月10日で、最終規則は修正される可能性も、確定しない可能性もある。したがって『60日はすでに廃止された』と扱うのは誤りだ。ただし実現した場合、企業の採用オペレーションで何が競争力になるかは今から考えられる。

DHSの3,795人は『解雇されたH-1Bの再就職者数』ではない

DHSはグレースピリオドの実利用者を直接識別できる完全なデータを持たないため、雇用主の撤回要請によって承認済みI-129が取り消された主たる受益者をproxyとして用いた。この集団には非自発的な雇用終了だけでなく、自発的に雇用主を変更した人も含まれる。

FY2021〜2025のproxy集団は合計328,758人、年平均65,752人だった。そのうち旧雇用主の承認I-129撤回後60日以内に、新雇用主が新たなI-129を提出したケースは5年間で18,975件、年平均3,795件。FY2025は5,178件だった。

したがって『毎年3,795人の解雇されたH-1Bが60日以内に再就職した』という意味ではない。DHS自身がデータ制約を明示しており、影響推計のためのproxyとして読む必要がある。

それでも企業が見るべき理由——該当集団の99.2%はH-1B

DHSは、年平均3,795件の新雇用主I-129提出集団のうち約3,765人、99.2%がH-1Bだと計算している。FY2025の同様のH-1B集団について、Form I-129の賃金データから年間賃金中央値を13万1,000ドルとしている。

これは米国労働市場全体の数字ではない。しかし時間制約が強くかかる層が、高度・高賃金の専門人材と大きく重なることは重要だ。企業にとっての数日・数週間の待ち時間が、候補者にとっては米国内で取り得る選択肢を左右する時間になりうる。

BANSEOG VIEW | 採用ファネルに『移民の時計』が重なる

通常の採用でも意思決定が遅ければ候補者離脱のリスクは高まる。しかし在留資格の時間も同時に進む場合、意味はさらに重くなる。Talent Quality、Compensation、Role Fitに加えて、Hiring Speedが特定候補者へのアクセス可能性を左右する条件になりうる。

面接官の日程調整で1週間、報酬承認でさらに1週間、immigration counselへの確認を最後に始める——こうした待ち時間は通常なら業務効率の問題で済む。しかし候補者側の法的・行政的な選択時間が圧縮されれば、同じ遅延がtalent accessの損失へ変わりうる。

つまり『良い候補者を見つける能力』と『見つけた候補者を速く判断する能力』を分けて考えにくくなる。採用スピードが単なるHR KPIからTalent Competitionの一部へ移る。

速い採用とは、検証を減らすことではない

解決策は面接を無条件に省略したり、ビザ保有者を急いで採用したりすることではない。規則案が最終化された場合に必要なのは、検証の深さではなく待ち時間を減らす設計だ。HR、現場、法務・移民専門家が早い段階から同じ時計を共有できる必要がある。

面接枠をあらかじめ確保し、評価軸とdecision ownerを開始前に決め、報酬レンジと承認ラインを合わせ、immigration reviewをオファー直前まで先送りしない。rigorを維持しながらqueue timeを減らす考え方だ。

Search firmにも同じ変化が及ぶ。候補者を発見して提出するだけでなく、クライアント企業が候補者の時間内に本当に意思決定できるかまでSearch executionの条件として見る必要が出てくる。

企業が問うべきことは『この候補者は優秀か』だけではない

規則案が最終化されれば、『この候補者は良いか』と同時に『われわれはこの候補者が動ける時間内に判断できるか』を問う必要がある。同じ報酬、同じ企業ブランドでもdecision latencyが違えば、実際にアクセスできる人材プールが変わる可能性がある。

一方、規則案が修正・撤回されれば影響も変わる。本稿は提案を確定した未来として扱うものではない。重要なのは、法制度上の時間制約が採用経済に入った瞬間、企業のオペレーション速度そのものが人材競争変数になり得るという構造だ。

採用ファネルが移民の時計と接続されれば、『いつ決めるか』は単なるスケジュール管理ではない。一部の専門人材市場では、誰を実際に採用可能なのかを決める問題になる。

Banseog View — The hiring funnel becomes an immigration clock

規則案が最終化されれば、特定の就労ビザ人材にとって採用スピードは実際のアクセス可能性を左右しうる。

速い採用とは検証を削ることではなく、面接・承認・報酬・移民確認の間にある待ち時間を削ることだ。

Talent QualityやCompensationだけでなく、企業のDecision Speedが人材競争力として価格付けされる可能性がある。

参照した主な資料

2026年9月14日時点で本件はProposed Ruleであり、最終化・施行された規則ではありません。DHSの328,758人・年平均3,795件はグレースピリオドの実利用者を直接数えたものではなく、承認済みI-129の撤回データを用いたproxyです。自発的な雇用主変更と非自発的な雇用終了を区別できないため、『解雇者の再就職統計』として解釈してはいけません。個別の在留・ビザ判断は専門家への確認が必要です。