50代5.79倍——先に動いたのは実際の転職市場だった

エン株式会社が2026年9月に公表した『ミドルの転職』の分析によると、同サービスを通じて転職した35〜59歳の2025年転職者数は2018年比で約2.5倍に増加した。なかでも50代は5.79倍と最も大きく伸びている。

ただし、これは日本の転職市場全体を示す数字ではない。『ミドルの転職』を通じて実際に転職が成立した利用者の内部データであり、サービス自体の成長や利用者構成、求人企業側の変化も含まれる。『日本全体の50代転職が5.79倍になった』と一般化するのは正しくない。

それでも、同じサービス内で7年間を比較したとき、50代の成立件数が大きく増えたという方向性は明確だ。かつて例外に近かった年齢層の移動が、実際の成立事例としてより頻繁に観測されるようになっている。

年収も『年齢が上がれば必ず下がる』では説明できない

2025年の転職成立者のうち、転職後の年収が10万円以上増えた割合は全体で48%。40代は53%、50代でも42%だった。50代では年収が下がるケースも少なくないため、『50代なら年収が上がる』という意味ではない。

重要なのは、年齢だけでは結果を一括して説明しにくくなっていることだ。どのような経験を持つのか、その経験が今の企業課題にどれだけ接続するのか、どの業界・役割へ移るのかによって、同じ50代でも結果は大きく分かれる。

年齢は依然として無視できない条件だが、市場はすでに年齢だけで人材を一つの塊として扱いにくい方向へ進んでいる。

ところが、自己評価は同じ速度では動いていない

エンが『ミドルの転職』の35歳以上の利用者1,052名を対象に行った別調査では、転職における不安の1位は『年齢について』50%、2位は『経験・スキルが通用するのか』49%、3位は『希望する求人の有無』42%だった。

年齢への不安は30代26%、40代45%、50代52%、60代55%と年齢が上がるほど高い。実際の成立データでは50代の転職件数が大きく増えている一方、候補者自身は50代でも半数以上が年齢を主要なリスクとして認識している。

この2つの調査は対象も目的も異なるため、直接的な因果関係を証明するものではない。ただ、実際の市場行動と本人の自己評価が同じ速度で更新されない可能性を示す対比としては強い。

BANSEOG VIEW | 市場は先に変わる。自己評価は後から変わる

キャリアの自己評価は、過去に経験した市場から作られる。40代後半や50代前半の人が数年前に『この年齢では転職は難しい』という環境を経験していれば、市場が変わった後も判断基準は古いデータに固定されやすい。

企業側も同じだ。過去の年齢基準をそのまま使えば、現在は実際に移動可能になっている経験人材を見逃すことがある。市場データが先に動き、候補者と企業のmental modelが遅れて変わる。

Career Intelligenceの役割は求人件数を増やして見せることだけではない。『自分が考える自分の市場価値』と『現在の市場で実際に観測される移動』の差を可視化することにある。

50代の問いも『転職できるか』から『どこなら経験が買われるか』へ

転職成立が増えているからといって、すべての50代に同じ機会が開いたわけではない。むしろ市場が広がるほど、どの経験がどの場所で価値を持つかを細かく見る必要がある。肩書きより、実際に解いてきた問題、組織規模、顧客タイプ、技術・規制経験、変革経験などが重要になる。

候補者が『この年齢で転職できるか』だけを問うと、巨大な市場を一つのYes/Noで判断することになる。『自分の経験のうち、今どの会社が対価を払うものは何か』『どの隣接業界で再利用できるか』『どの役割では年齢が弱点ではなく信頼資産になるか』へ問いを変えた方が実用的だ。

企業側も『50代かどうか』より、『この人がすでに解いた問題を、いま自社も抱えているか』を先に見られれば、より広いtalent poolにアクセスできる。

結論は『ミドル転職は楽になった』ではない

今回のデータは、50代なら誰でも簡単に転職できることを示してはいない。特定サービスで実際に転職が成立した人だけを見るselection effectがあり、50代の年収増加率は40代より低い。年齢不安も依然として高い。

それでも重要なのは、市場を過去の常識のまま固定しないことだ。成立データが動き始めているなら、候補者も企業も自分たちの基準を定期的に再測定する必要がある。

市場は先に変わる。自己評価はその後を追う。そのタイムラグを早く見つけた人が、キャリアでも採用でも先に動ける。

Banseog View — 市場は先に変わる。自己評価は後から変わる

『ミドルの転職』内部の成立者では、50代の転職者数は2018年から2025年に5.79倍へ増えた。

一方で50代利用者の52%は、今も『年齢』を転職の不安として挙げる。

Career Intelligenceは、過去の自己評価と現在の市場で実際に起きている移動の差を示すべきだ。

参照した主な資料

5.79倍と年収変動は日本の労働市場全体の統計ではなく、『ミドルの転職』を通じて実際に転職した利用者の分析です。1,052名の不安調査は同サービスの別の利用者アンケートで、転職成立者分析とは対象・目的が異なります。本稿は両者の対比を市場変化と自己認識のタイムラグを考える観察材料として用い、因果関係は断定していません。