人が足りないのに、新規受入れを止めるという矛盾

日本の外食業を語るとき、まず出てくるのは人手不足です。帝国データバンクの2026年7月調査では、非正社員の不足を感じる企業は全体で28.8%でしたが、「飲食店」は57.7%で業種別トップでした。前年同月から4.1ポイント改善しても、なお半数を大きく超えています。

それでも4月13日から、外食業の特定技能1号について海外から新たに人材を受け入れるための在留資格認定証明書(COE)の交付が一時停止されました。人手不足なのに供給の入口を狭めるため、一見すると矛盾して見えます。

この矛盾は『企業が感じる人手不足』と『一つの在留資格制度に設定された受入れ上限』を同じ数字として扱うと生まれます。両者は別の問いに答える数字です。

2月末で約4.6万人 — 人が余ったのではなく、制度上の上限に近づいた

出入国在留管理庁は3月27日、外食業の特定技能1号在留者が2月末時点で約4万6千人になったと公表しました。当時適用された1号の受入れ見込数は5万人で、5月頃に上限を超える見込みとされました。

制度上、受入れ見込数を超えると予測される場合にはCOE交付を一時停止する仕組みがあります。そのため4月13日以降に受理された外食業特定技能1号の新規COE申請は不交付となりました。

直接の理由は『外食業の人手不足が解消した』からではありません。特定技能1号という制度枠の供給量が上限に近づいたからです。

ただし、日本国内にいる外食人材の転職は止まっていない

採用市場として最も重要なのはここです。出入国在留管理庁が8月10日に更新した審査状況では、外食業の特定技能1号から、転職に伴って同じ外食業分野の特定技能1号へ変更する申請について『全ての申請』を通常どおり審査しています。

つまり海外から新しい人を追加する入口は狭まりましたが、日本の外食労働市場にすでにいる人が企業を移る道まで閉じたわけではありません。供給総量の制限と人材の移動停止は同じではありません。

企業側から見れば、新規海外採用だけでなく、国内在留人材から選ばれる競争がより重要になります。

受入れ停止の影響も、全企業で同じではない

食団連が全国の飲食店経営者・役員を対象に実施している調査では、8月19日時点で36都道府県から448件の回答が集まりました。事業計画への影響について『影響なし』『ほぼ影響なし』を合わせると54.2%でした。

一方で『中くらいの影響』以上も21.0%あります。地域、業態、採用経路、これまでの特定技能人材への依存度が違うため、同じ制度変更でも企業ごとの影響は大きく異なります。

したがって『受入れ停止で外食業全体が危機』とも、『半数以上に影響がないから問題なし』とも言えません。どの企業がどの供給経路に依存していたかを分解する必要があります。

供給を増やしにくいほど、採用は「入国」から「選択」の競争へ

海外から継続的に新しい候補者を追加できる市場では、採用戦略は募集経路や入国手続きに寄りやすくなります。しかし新規供給が制約され、既存在留者の転職が可能なら、競争の中心は変わります。

賃金だけでなく、勤務時間、住宅支援、日本語学習、教育、店長・管理職へのキャリアパス、生活環境などが『どの会社を選ぶか』『どこに残るか』に直結しやすくなります。

外国人採用を一度きりの人員調達として見る企業と、採用後の定着・成長まで設計する企業との差が大きくなる構造です。

地方・中小の外食企業には、さらに難しい問いが残る

限られた人材をすべての企業が同じ条件で奪い合うわけではありません。大都市と地方、大手チェーンと独立店では、賃金だけでなく住環境、交通、同僚ネットワーク、教育、昇進機会が違います。

地方企業に必要なのは『外国人をもっと採ればいい』という答えだけではありません。すでに日本で働く人が、なぜその地域を選び、その会社に残り、次の役割へ進みたいと思うのかを説明する必要があります。

これは日本人採用にも共通します。供給が少ないほど、候補者が動く理由をつくること自体が採用力になります。

『日本は人手不足』という平均より、人がどこへ動くかを見る

全国の求人倍率や外国人数の合計だけでは、この市場は読み切れません。海外からの新規流入、日本国内の在留人材、転職可能性、地域、定着条件という別々の層が同時に動いています。

企業に必要なのは、どの供給経路が実際に開いているかと、候補者がなぜ移動するのかを見ることです。個人にとっては、どの会社・地域が生活とキャリアの次の一歩につながるかが重要です。

人手不足だから採用できるわけではありません。供給が限られるほど、すでにいる人がどこへ動くかが企業の採用結果を大きく左右します。

入口が狭くなると、人材競争は終わるのではなく市場の内側へ移る

日本の外食市場では、飲食店の非正社員不足57.7%と、特定技能1号の海外新規受入れ制限が同時に存在しています。

しかし、すでに日本にいる外食業の特定技能1号人材は同じ分野内で転職できます。新規供給が制限されても、人の移動まで止まるわけではありません。

そのため競争は『海外から何人連れてくるか』だけではなく、『日本にいる人がどの会社へ移り、どこに残るか』へ移ります。

人手不足の市場で次に問われるのは、人を探すことだけではありません。すでにいる人に、なぜここで働くのかという理由をつくることです。

参照した主な資料

2026年4月の停止措置は、当時の外食業・特定技能1号の受入れ見込数5万人を基準に実施されました。これは日本の外食業で働く外国人全体の上限ではなく、外国人採用全体の禁止でもありません。8月10日時点では、既存の外食業特定技能1号人材が同一分野内で転職する申請は通常どおり審査されています。帝国データバンクと食団連の数値は別々の調査で、単純合算できません。